猫のように暮らしタイ

タイでの「暮らしを愉しむ」ささやかな私の日常を猫のように気ままに綴っていきます。

「海のふた」よしもとばなな|感想文

前回の感想文もよしもとばななでした。
読んだ本が良かったと思うと、だいたい続けて同じ作家の本を読むのが癖です。

私は生まれは下町です。
下町は、東京の中でも独特な風情があって、夏になるとよくお祭りがあったり、花火を見たり、近くには隅田川が流れる土手があったので、そこでいとこ達と遊んだりしていました。
4歳の時にはすでに今の実家へ引っ越してきたので、それほど多くの思い出があるわけではないけど、幼いながらも、下町のあの夏の熱気は、とても印象的なこととして、私の中に残っています。

この「海のふた」は、そんな生まれ故郷を大事に思う気持ちが、色々な場面にちりばめられています。

主人公のまりは短大を卒業後、西伊豆の実家に戻り、地元で小さなカキ氷屋をはじめます。
夏の一番のかきいれどきに、母の親友の娘、はじめちゃんを預かることになり、店の事もあるし、一人が好きなまりは最初はうんざりしていた。
はじめちゃんは小さな頃にあった火事で、顔や体の右半分がまだらに真っ黒。最初はその容姿にもぎょっとするのだが、まりは次第にはじめちゃんが無くてはならない大事な存在になっていく。

夏の始まりから終わりまで、言葉通り「ひと夏」をはじめちゃんと共に過ごしたまりは、この夏が一生、かけがえのない日々になる。
人それぞれ印象深かった時期、その時期を過ごした場所、一緒に過ごした人達って違うと思いますが、それは後になってとても大きな自分の財産になっている、お金では決して買えないものです。それを大事に、大事にして心の中でとどめて置ければ、人って成長してまた違った自分に出会えるんじゃないかなってこの本を読んでいて思いました。

まりとはじめちゃんの一日は、まりのカキ氷屋を、まりと共にはじめちゃんも手伝って、海で毎日泳いで、家に帰ってうたた寝して、起きたらまりの母が作った夕飯が用意されていて、と、なんの変哲もない毎日です。でもそんな毎日の中でも、まりとはじめちゃんが色々なことを感じとって、夏が終わる頃には二人がとても成長している、そんな描写が、今はさびれてしまったまりの地元、西伊豆のゆるい空気の流れとともに流れるように描かれています。

この本はリラックスしている時に読むと、すぅーっと文章が入ってきて心地よく読むことができると思います。もしくは毎日に疲れてリラックスしたい時に読むと体の力が抜けて気持ちよく脱力できると思います。

前回読んだよしもとばななの「チエちゃんと私」

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この本もそうでしたが、よしもとばななの本は、物語自体は淡々としているけれど、何かじわりじわり、ゆーっくりと心に染み渡って、読み終えた後に、「あれ?わたしなんか前向きになれてる」って読む前と比べると元気になっているんですよね。
心地よいよしもとばななの世界、とても気に入りました。

次回は、私が大好きで何回も読み返している本があるのですが、それをまた読み返してから読書感想文を書こうと思います☆